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東京地方裁判所 昭和63年(ワ)10183号 判決

主文

一  第一事件及び第二事件原告株式会社一越と第一事件及び第二事件の被告らとの間において、原告株式会社一越が別紙目録記載の供託金について還付請求権を有することを確認する。

二  第三事件原告国の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、第一ないし第三事件を通じて、株式会社一越以外の当事者らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  第一及び第二事件の請求の趣旨

主文一及び三と同旨

二  第一及び第二事件の請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

三  第三事件の請求の趣旨

1  原告国と第三事件の被告らとの間において、原告国が別紙目録記載の供託金について還付請求権の取立権を有することを確認する。

四  第三事件の請求の趣旨に対する答弁

1  主文二と同旨

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

(第一及び第二事件)

一  請求原因

1 原告株式会社一越(以下単に「一越」という。)は、訴外有限会社藤沢金型(以下単に「藤沢金型」という。)に対し、次のとおり、金員を貸し渡した(以下、これらをそれぞれ「〈1〉、〈2〉、〈3〉の貸付」という。)

〈1〉 貸付日   昭和六二年一一月一六日

金額    金四、一九〇万円

弁済期   同年一二月一五日

利息    月利一・二五パーセント

遅延損害金 月利二・五パーセント

〈2〉 貸付日   昭和六二年一一月二五日

金額    金六〇〇万円

弁済期   同年一二月二六日

利息、遅延損害金は、〈1〉と同じ。

〈3〉 貸付日   昭和六二年一二月五日

金額    金五〇万円

弁済期   同年一二月九日

利息、遅延損害金は、〈1〉と同じ。

2 原告一越は、〈1〉の貸付に際して、藤沢金型との間で、〈1〉の貸付金の返済について、藤沢金型において、小切手等の不渡りがあったときは期限の利益を喪失すること、及び債務不履行があったときは右貸付金の弁済に代えて藤沢金型の訴外エヌオーケー株式会社(以下単に「エヌオーケー」という。)に対する債権(金型の売掛代金債権)全額を原告一越に譲渡することとし、この譲渡については原告一越が一方的に予約完結権を有することを内容とする債権譲渡の予約契約を締結した。

3 原告一越は、最も弁済期の早い〈3〉の貸付金の弁済期である昭和六二年一二月九日、藤沢金型から弁済のため交付を受けていた第一勧業銀行藤沢支店を支払地とし、額面金五〇万円とする小切手を取り立てたところ、右小切手は、資金不足により不渡りとなったため、藤沢金型は、同日、〈1〉の貸付につき期限の利益を失った。

4 当時、藤沢金型はエヌオーケーに対し、次のとおりの金型等の売掛代金債権(合計金一一、八三七、五六〇円)を有していた(以下「a売掛代金債権、b売掛代金債権」、両者を併せて「本件売掛代金債権」という。)。

a弁済期   昭和六二年一二月二六日

金額    金九、〇九二、二二〇円

b弁済期   昭和六三年一月三一日

金額    金二、七四五、三四〇円

5 原告一越は藤沢金型に対し、前記2記載の予約完結権に基づき、昭和六二年一二月九日、本件売掛代金債権全額を譲り受ける旨の予約完結の意思表示を行い、これを受けて、藤沢金型はエヌオーケーに対し、同月一〇日到達の内容証明郵便により、本件売掛代金債権を原告一越に譲渡した旨通知した。

6 藤沢金型はエヌオーケーに対し、昭和六二年一二月一一日到着の文書により、本件売掛金代金債権を被告泰平物産株式会社(以下単に「泰平物産」という。)上野支店に債権譲渡した旨通知し、また、同月一四日到着の文書により、右債権を被告株式会社シティートラスト(以下単に「シティートラスト」という。)に債権譲渡した旨通知した。

7 さらに、本件売掛代金債権は、次のとおり差押えないし仮差押えがされた。

(一) 仮差押権者 被告日産モーター株式会社(以下単に「日産モーター」という。)

請求債権額 金五、九〇三、〇九八円

送達日   昭和六二年一二月二一日

(二) 差押権者 被告神奈川県大和市

滞納金額 金四〇、七五〇円

送達日   昭和六三年一月二五日

(三) 差押権者  被告国の機関である平塚社会保険事務所

滞納金額  金二、九二〇、一六九円

送達日   昭和六二年一二月一一日

(四) 差押権者  被告国の機関である藤沢税務署

滞納金額  金七、三八五、三二九円

送達日   昭和六二年一二月二二日

なお、差押債権額は、昭和六二年一一月一日から同月三〇日までの売掛代金債権金九、〇九二、二二〇円である。

8 エヌオーケーは、昭和六三年一月二九日、本件売掛代金債権につき真の債権者を確知できないとして、東京法務局に対し、被供託者を原告一越及び被告らとして、供託番号昭和六二年度金一二六二〇七号をもって、金一一、八三七、五六〇円を供託した。

9 よって、原告一越は、前記予約完結権の行使により、本件売掛代金債権の譲渡を受け、確定日付ある証書により債権譲渡通知がされているので、右供託金について還付請求権を有しているが、被告らはこれを争うので、被告らに対し、その確認を求める。

二  請求原因に対する認否

(泰平物産)

1  請求原因1ないし3は不知。

2  同4は認め、同5は不知。

3  同6の前段は認め、後段は不知。

4  同7は不知。同8は認める。

(シティートラスト)

1  請求原因1ないし3は不知。

2  同4は認め、同5は不知。

3  同6の前段は不知、後段は認める。

4  同7は不知。同8は認める。

(日産モーター)

1  請求原因1ないし3は不知。

2  同4については、当時、藤沢金型がエヌオーケーに対し、何らかの金型等の売掛代金債権を有していたことは認めるが、金額等の詳細は、不知。

3  同5及び6は不知。

4  同7のうち、日産モーターによる仮差押えの件は認め、その余は不知。

5  同8は認める。

(神奈川県大和市)

1  請求原因1ないし6は不知。

2  同7のうち、大和市による差押えの件は認め、その余は不知。

3  同8は認める。

(国)

1  請求原因1ないし3は不知。なお、第三事件請求原因6記載のとおり、本件売掛代金債権の譲渡は、実体がなく、効力を生じないものである。

2  同4は認め、同5は不知。

3  同7のうち、国の機関による差押えの件は認める。

4  同8は認める。ただし、被供託者は、藤沢金型、一越及び泰平物産上野支店の三者だけである。

(第三事件)

一  請求原因

1 原告国の機関である平塚社会保険事務所長及び藤沢税務署長は、藤沢金型に対し、昭和六二年一二月現在、既に納期を経過した別紙滞納金目録(一)記載の保険料債権金三、〇二〇、六六九円及び同目録(二)記載の国税債権金八、〇二五、六二九円を有している。

2 藤沢金型はエヌオーケーに対し、本件売掛代金債権を有している。

3 原告国の機関は、1項記載の各債権を徴収するため、本件売掛代金債権を次のとおり、国税徴収法六二条に基づき差し押えた。

(一) 平塚社会保険事務所長は、昭和六二年一二月一一日差押えを行い、同日、エヌオーケーに差押通知書を送達した。

(二) 藤沢税務署長は、昭和六二年一二月二二日、本件売掛代金債権のうちa売掛代金債権を差し押え、一二月二二日、エヌオーケーに差押通知書を送達した。

4 本件売掛代金債権については、第一及び第二事件の請求原因5、6記載の内容の債権譲渡通知がされている。

5 エヌオーケーは、第一及び第二事件の請求原因8記載のとおり、供託を行った(ただし、被供託者は、藤沢金型、一越及び泰平物産上野支店である。)。

6 藤沢金型と一越との間の前記債権譲渡は、実体がなく、効力を生じないものである。すなわち、(一)一越は、株主は代表者である高野美枝子一人で、役員報酬を受けているのも同人のみであり、商業登記簿上の本店所在地にその実体はなく、法人税の確定申告や所轄の社会保険事務所長に対する保険料徴収義務者の届出もなく、藤沢金型に対し〈1〉、〈2〉、〈3〉の貸付けをするだけの資産はない。また、(二)第一及び第二事件の請求原因3記載の不渡り事故の際、藤沢金型の代表者熊田義男は、当日の昼頃から所在不明になっており、同請求原因5記載のような予約完結権行使の意思表示を受けたり、債権譲渡通知書を作成し発送することは、不可能な状況にあった。さらに、(三)藤沢金型とエヌオーケーとの間の金型等の取引基本契約において、藤沢金型は、エヌオーケーの書面による承諾を得ない限り、債権譲渡することが禁止されている。

7 藤沢金型と泰平物産及びシティートラスト間の各債権譲渡について、確定日付のある債権譲渡通知書がエヌオーケーに送達された日は、いずれも前記平塚保険事務所長の債権差押通知書の送達日より後である。

8 よって、原告は、本件供託について取立権を有しており、被告らに対し、その確認を求める。

二  請求原因に対する認否

(一越)

1  請求原因1は不知。

2  同2ないし5は認める。

3  同6は否認する。

4  同7は認める。

(泰平物産)

1  請求原因1及び3は不知。

2  同2は認める。

3  同4のうち、一越に対する債権譲渡通知の点は不知、その余は認める。

4  同5は認め、同6は不知。

5  同7のうち、シティートラストに関する部分は認め、その余は否認する。

(シティートラスト)

1  請求原因1は不知、同2は認める。

2  同3のうち、(一)、(二)の差押通知書の送達の点はいずれも認める。その余は不知。

3  同4、5は認める、同6は不知。

4  同7の送達の先後は認める。

第3  証拠(省略)

理由

(省略)

(別紙)

目録

供託所      東京法務局

供託年月日    昭和六三年一月二九日

供託番号     昭和六二年度金第一二六二〇七号

供託金      金一一、八三七、五六〇円

供託者      エヌオーケー株式会社

被供託者     第一ないし第三事件原被告ら

(別紙)

滞納金目録(一)

〈省略〉

(別紙)

滞納金目録(二)

〈省略〉

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